UFC選手は計量後に何kg戻す?試合当日体重・減量・リカバリーと勝敗への影響

スポーツ

UFCの公式計量を見ていると、選手は定められた階級の体重に収まっています。

しかし、計量を終えた選手がそのままの体重で試合をするわけではありません。

計量後に水分や食事を補給し、試合当日には数kg、選手によっては10kg以上も体重を戻していることがあります。

例えば、ライト級の公式計量を約70kgで通過した選手が、翌日の試合では80kgを超えていることもあります。

同じ階級の選手同士が戦っているはずなのに、実際にケージへ入る時の体重は計量時と大きく異なるのです。

では、体重を多く戻した選手ほど試合で有利なのでしょうか。

大きな身体で戦えるなら有利に思えますが、過酷な減量によって体力や集中力が十分に戻らない可能性もあります。

私がこの記事で特に伝えたいのは、次の点です。

「体重を何kg戻したか」と「試合で本来の能力を発揮できるまで身体が回復したか」は、同じ意味ではありません。

この記事では、UFC選手の計量時と試合当日の体重差、減量とリカバリーの仕組み、実際に大きく体重を戻した選手、大幅なリカバリーが勝敗に与える影響について考察します。

※本記事は減量方法を指南するものではありません。競技者の体重管理は、医師、管理栄養士などの専門家による管理の下で行われるべきです。


結論:10kg以上戻す選手もいるが、多く戻せば必ず有利とは限らない

先に結論をまとめると、UFC選手が公式計量後に戻す体重は選手によって大きく異なります。

数kg程度の選手もいれば、試合当日までに10kg以上、計量体重の15~17%前後を戻す選手もいます。

2020年に発表されたプロMMA選手の調査では、対象となった選手の98%が公式計量から試合までに体重を増やしていました。2018~2023年のUFCとBellatorの選手245人を分析した研究でも、両団体の選手は公式計量から試合当日までに有意に体重を増やしていました。

ただし、研究結果を見ると、

  • 体重増加率と勝利に関連があったとする研究
  • 体重増加率と勝敗に明確な関係はなかったとする研究

の両方が存在します。

したがって、

大きく体重を戻すことは体格面のメリットになる可能性はあるものの、勝利を保証するものではない

というのが現時点で妥当な結論です。


「通常体重」「キャンプ中」「公式計量」「試合当日体重」の違い

MMA選手の体重を比較する際には、どの時点の数字なのかを区別する必要があります。

体重の種類意味
通常体重試合が決まっていない時期やオフシーズンを含む、普段の体重
キャンプ中の体重試合に向けて食事や体脂肪を調整し、徐々に落としている途中の体重
公式計量時の体重階級の規定を満たしているか確認するために測定する体重
試合当日の体重公式計量後に水分や食事を補給し、試合当日に測定した体重

通常体重

通常体重は、選手本人やコーチがインタビューなどで明かす自己申告の数字であることが多いです。

しかし、オフシーズンの最も重い時期なのか、キャンプ開始時なのかによって数字が変わります。

そのため、「通常体重が何kgあるか」だけで選手同士を厳密に比較するのは困難です。

キャンプ中の体重

試合が決まると、選手は数週間から数か月をかけて身体を仕上げます。

この期間には体脂肪や食事量を調整し、公式計量に向けて段階的に体重を落としていきます。

ただし、「試合1か月前」と「試合1週間前」では体重が違うため、キャンプ中の数字についても測定時期を確認する必要があります。

公式計量時の体重

公式計量は、その選手が契約した階級の規定を守っているか確認するためのものです。

ここで表示される数字は、選手が普段生活している時の体重ではありません。

選手によっては、水分や体内のエネルギー貯蔵量、消化管内の内容物なども減らした、一時的に非常に軽い状態で体重計に乗ります。

試合当日の体重

公式計量を通過した選手は、試合までの時間を使って水分、電解質、炭水化物、食事などを補給します。

これによって体重は大きく増えますが、増えた分の大半は新たに付いた筋肉や脂肪ではありません。

水分、筋肉などに蓄えられるグリコーゲンとそれに伴う水分、食事や飲料の重量が含まれています。


MMA選手はどのように減量し、体重を戻すのか

MMAの減量は、大きく分けると二つの段階があります。

一つ目は、試合までのキャンプで時間をかけて体脂肪などを落とす段階です。

二つ目は、公式計量の直前に一時的に体内の水分などを減らす段階です。

そして公式計量を終えた後、水分、電解質、糖質、食事などを補給し、試合に向けて身体を回復させます。

格闘技の世界で一般的に「リカバリー」と呼ばれているのは、この計量後の体重増加と回復の過程です。

しかし、本来のリカバリーは単に体重計の数字を増やすことではありません。

  • 失った水分を適切に戻す
  • 電解質のバランスを整える
  • 筋肉のエネルギー源を補充する
  • 血液量や循環機能を回復させる
  • 食事を消化し、試合中に動ける状態を作る

といった複数の要素が関係します。

カリフォルニア州アスレチック・コミッションは、適切な水分回復には数時間から数日かかる可能性があると警告しています。つまり、計量後に大量の水分を摂取して体重が戻っても、翌日までにすべての身体機能が完全に戻るとは限りません。


体重が戻ることと、身体が回復することは別

試合当日の体重が通常体重に近づいていれば、「減量から完全に回復した」と考えたくなります。

しかし、体重計が示す数字だけでは、身体の内部がどの程度回復しているか分かりません。

例えば、飲料や食事を大量に摂れば、その重量によって体重は増えます。

一方で、

  • 細胞内外の水分バランス
  • 血液量
  • 腎機能
  • 電解質
  • 筋肉のエネルギー
  • 胃腸の状態
  • 集中力や反応速度

まで完全に正常化しているとは限りません。

カリフォルニア州アスレチック・コミッションは、脱水によって筋力と持久力、心血管機能、腎機能、集中力が低下する可能性があり、電解質異常や熱中症、失神などの危険もあるとしています。

この点を無視して「10kg戻したから有利」とだけ判断するのは危険です。


公式データで体重を大きく戻したUFC選手

カリフォルニア州アスレチック・コミッションは、同州で開催された大会について公式計量時と試合当日の体重を測定しています。

以下は、その公開データで大きな体重増加が確認された主な例です。

選手大会公式計量試合当日増加量増加率
タギル・ウランベコフUFC 311約56.9kg約66.9kg約9.9kg約17.5%
ヘナート・モイカノUFC 311約70.3kg約82.5kg約12.2kg約17.3%
メラブ・ドバリシビリUFC 311約60.8kg約71.1kg約10.3kg約17.0%
パウロ・コスタUFC 298約84.1kg約97.6kg約13.5kg約16.0%
イリア・トプリアUFC 298約65.5kg約75.8kg約10.3kg約15.7%
ヘイニエル・デ・リダーUFC 311約83.7kg約96.2kg約12.5kg約14.9%

※ポンドからkgへの換算および増加率は、公表値を基に小数第1位まで計算しています。

UFC 311では、カリフォルニア州アスレチック・コミッションの基準である体重増加率10%を超えた選手が15人いました。モイカノは155ポンドから181.8ポンド、ドバリシビリは134ポンドから156.8ポンド、デ・リダーは184.5ポンドから212ポンドまで増加しています。

UFC 298では、トプリアが144.5ポンドから167.2ポンド、コスタが185.5ポンドから215.2ポンドへ増加しました。

この表を見る際の注意点

この数字だけを見て、「UFC史上最も体重を戻した選手」と断定することはできません。

すべての開催地域が試合当日体重を公開しているわけではなく、主にカリフォルニア州で測定された一部大会のデータだからです。

また、試合当日体重は大会当日に測定された数字であり、ケージに入る直前の正確な体重とは限りません。

そのため、この表は、

公式データで確認できる範囲において、体重増加が特に大きかった例

として見る必要があります。


増加量はkgだけでなく割合でも見る必要がある

体重の戻し幅を比較する際には、kgだけでなく増加率も重要です。

例えば、ミドル級の選手が10kg戻す場合と、フライ級の選手が10kg戻す場合では、身体全体に占める割合が大きく異なります。

体重84kgの選手が10kg増えれば約12%ですが、57kgの選手が10kg増えれば約18%です。

絶対的な増加量だけで比較すると、もともと身体が大きい重量級の選手が上位になりやすくなります。

そのため、

  • 増加したkg
  • 公式計量時からの増加率
  • 対戦相手との試合当日の体重差

を合わせて見ることが重要です。


体重を大きく戻すと試合で有利なのか

体重を大きく戻す目的は、試合当日にできるだけ大きく、強い身体で戦うことにあります。

理論上は、対戦相手より重いことで次のようなメリットが考えられます。

考えられるメリット内容
組みの圧力ケージ際やクリンチで相手に体重を預けやすい
テイクダウンとトップコントロール上から相手を押さえ込む際に体重を利用できる
フィジカルコンタクト同程度の技術なら、身体の大きさが接触場面で有利になる可能性がある
打撃の威力回復状態が良ければ、大きな身体から力を伝えられる可能性がある

ただし、これらは正常に回復できていることが前提です。

大きく減量した結果、十分に回復できなければ、

  • スタミナの低下
  • 筋力や瞬発力の低下
  • 集中力や反応の低下
  • 打撃に対する耐久力への悪影響
  • 胃腸の不調
  • 倦怠感や脱力感

などが起こる可能性があります。

つまり、大幅な減量には、

試合当日の体格を大きくできる可能性

と、

身体が回復せず、本来の能力を失う危険性

が同時に存在します。


研究結果は一致していない

体重を多く戻した選手ほど勝ちやすいのかについて、研究結果は統一されていません。

700試合、合計1,400件の計量データを分析した研究では、公式計量後の体重増加率と試合の勝利に統計的な関連が確認されました。

一方、カリフォルニア州で行われたプロMMAの勝者62人と敗者62人を比較した研究では、試合当日の体重や計量後に戻した体重と、勝敗の間に明確な関係は確認されませんでした。

Bellator選手を対象とした別の研究でも、選手は計量後に大きく体重を戻していたものの、その増加量が勝敗を有意に予測するとは確認されていません。

研究ごとに、

  • 対象となった団体
  • 選手数
  • 階級
  • 測定時期
  • 大会レベル
  • 体重差以外の条件

が異なるため、単純には比較できません。

現時点では、

大きなリカバリーが体格面の利点になる可能性はある。しかし、技術、対戦相性、戦術、コンディションなどの影響も大きく、体重増加だけで勝敗は決まらない

と考えるのが適切です。

実際、体重を大きく戻した選手が軽い相手に敗れる試合も珍しくありません。


リカバリーに失敗すると何が起こるのか

大幅な減量を行った選手にとって、公式計量はゴールではありません。

むしろ、計量を終えてから試合までの回復が成功するかどうかが重要です。

体重を戻すことに成功しても、身体の水分や電解質、消化機能が十分に回復していなければ、試合中に異変が表れる可能性があります。

特に危険なのは、直前まで体重が落ちず、計量間際に無理を重ねた場合です。

2017年のUFC 209では、ハビブ・ヌルマゴメドフが体重管理に関連する医学的問題で病院へ搬送され、トニー・ファーガソンとの試合が中止になりました。

どれほど重要な試合であっても、ケージにたどり着けなければ意味がありません。

さらに、計量には成功しても、試合当日までに十分回復できなければ、本来持っているスタミナ、パワー、判断力を発揮できない可能性があります。


大幅な減量を比較的こなしやすい条件

「このような体質なら大幅減量をしても安全」と断定することはできません。

同じ選手でも、年齢、体調、遠征先、気候、減量期間によって結果は変わります。

そのうえで、比較的安定して減量をこなしている選手には、次のような条件が考えられます。

  • キャンプ開始時から計画的に体重を管理している
  • オフシーズンに階級から大きく離れすぎていない
  • 過去の自分の身体反応を把握している
  • 医師や栄養の専門家を含むサポート体制がある
  • 計量後に水分や食事を問題なく受け付けられる
  • 遠征先の時差や気候に早めに適応している
  • 年齢や現在の体格に合った階級を選んでいる

重要なのは、「何kg落とせるか」ではなく、どの階級なら計量後も正常に戦えるかです。


階級変更を検討すべき危険信号

次のような問題が繰り返される場合、その階級が現在の身体に合っているのか再検討する必要があります。

  • 公式計量に何度も失敗する
  • 減量が原因で試合が中止になる
  • 失神、意識の混乱、激しい震えなどが起こる
  • 計量後も水分や食事を受け付けない
  • 尿量が極端に減る
  • 毎回、計量直前まで大幅な体重を残している
  • 試合中に以前より明らかに動けなくなる
  • 年齢とともに同じ減量が難しくなる
  • 減量期間中の体調不良やけがが増える

カリフォルニア州アスレチック・コミッションは、過度な減量と脱水によって、筋力・持久力の低下、心血管機能や腎機能への負担、電解質異常、集中力低下などが起こる可能性を警告しています。

体重計の数字を合わせることができても、それによって競技能力を失っているなら、その階級を選ぶ意味は薄くなります。


なぜ選手は命懸けの減量を続けるのか

ここからは私個人の考えです。

過酷な減量の映像を見ると、私は毎回複雑な気持ちになります。

身体にほとんど水分が残っていないように見える状態で、支えられながら体重計に乗る選手もいます。

場合によっては病院へ搬送され、長い時間をかけて準備した試合そのものが中止になります。

それでも選手が減量するのは、少しでも勝つ確率を高めたいからだと思います。

試合当日、相手より大きな身体で戦える可能性があるなら、タイトル、報酬、ランキング、今後のキャリアが懸かった選手が、その可能性を簡単に捨てられないのは理解できます。

周囲の選手も同じように減量している以上、自分だけが通常体重に近い階級で戦えば、試合当日に大きな体格差を背負う可能性もあります。

そこまでして勝とうとする選手たちの執念は、私たち一般人には想像できないほど強いものだと思います。

その覚悟には畏敬の念を抱きます。

しかし、私は過酷な減量を「プロなのだから当然」「命懸けだからかっこいい」という美談だけで終わらせたくありません。

試合をする前に病院へ運ばれるほど身体を追い込むことが、本当に競技として理想的な状態なのかという疑問は残ります。

減量に成功したことと、健康的であることは別です。

そして、何度も極端な減量とリカバリーを繰り返した場合、長期的に選手の身体へどのような影響が残るのかについても、私は不安を感じます。

過酷な減量が寿命を縮めるとまでは、現在の研究から断定できません。

それでも、急性の脱水、腎機能への負担、心血管系への負担、電解質異常など、無視できない危険があることは確かです。

選手の勝利への執念を尊重することと、危険な減量を肯定することは、同じではないと思います。


UFC選手のリカバリーに関するよくある疑問

10kg体重を戻したら、10kg分筋肉が増えたということ?

違います。

計量後の短い時間に筋肉や脂肪が10kg増えるわけではありません。

戻った体重には水分、グリコーゲンに伴う水分、食事や飲料などが含まれています。

体重を多く戻した方が必ず有利?

必ず有利とは限りません。

体格や組みの圧力で有利になる可能性はありますが、減量によるダメージから回復できていなければ、スタミナや集中力などを失う可能性があります。

研究結果も一致しておらず、体重増加率だけで勝敗を予測することはできません。

なぜ全UFC選手の試合当日体重が分からないの?

試合当日体重を測定・公開するかどうかは、開催地域を管轄するアスレチック・コミッションなどによって異なります。

カリフォルニア州では公開例がありますが、UFC全大会について同じ形式のデータが公表されているわけではありません。

そのため、「UFC史上最も体重を戻した選手」を完全に特定するのは困難です。


まとめ:最も多く体重を戻した選手が、最も強いわけではない

UFC選手は公式計量後、試合当日までに数kgから10kg以上の体重を戻すことがあります。

公表データでは、公式計量時から15~17%前後も体重を増やした選手が確認されています。

大幅なリカバリーに成功すれば、試合当日のサイズや組みの圧力で有利になる可能性があります。

一方で、体重計の数字が戻っていても、身体が完全に回復しているとは限りません。

無理な減量によって、

  • スタミナ
  • 筋力
  • 集中力
  • 腎機能
  • 心血管機能
  • 電解質バランス

などに悪影響が残れば、体格面のメリットを上回る不利益になる可能性があります。

研究でも、大きく体重を戻した選手ほど勝ちやすいという結果と、勝敗との明確な関係はないという結果の両方があります。

したがって、この記事の結論は次のとおりです。

大きなリカバリーは試合当日の武器になり得る。しかし、最も多く体重を戻した選手が、最も強い選手とは限らない。

私は、命を懸けてでも勝とうとする選手たちの執念に驚かされます。

しかし同時に、試合をするために健康や選手生命を大きく危険にさらす現在の減量文化が、本当に最善なのかという疑問も持っています。

階級選択で最も重要なのは、限界まで体重を落とせることではありません。

試合当日に、その選手が本来持っている能力を発揮できることだと思います。


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主な参考資料

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